コア事業の競争力強化や新市場参入などを目指し、クロスボーダーM&Aや分社を進めた結果、多くの海外子会社を抱える日本企業において、現地の法規制や文化の違いへの対応に苦慮しているケースが目立ちます。
海外子会社による不正が発生しないための研修・管理体制は、どのような点に留意して構築すればよいのでしょうか。
そこで本記事では、海外子会社のガバナンス強化の必要性と、駐在員・現地社員向けに研修を実施する際のポイントを解説します。必須の研修テーマも紹介しますので、コンプライアンス責任者の方は当記事をぜひ参考にしてください。
そもそもコンプライアンスリスクとは、従業員による暴力・賭博などの犯罪、不正な報告、汚職、資産の流用といった不正によって企業が被る損失の可能性のことを指します。昨今のビジネス環境においては、差別やハラスメントも、多額の賠償金支払いやブランドイメージの失墜、不買運動につながりかねないセンシティブな問題かつ重大なリスクです。
ここでは、海外拠点においてコンプライアンスリスクが高まりやすい要因について見ていきましょう。
海外子会社を舞台にしたコンプライアンスリスクの例として、次のような行為が挙げられます。
たとえば、現地公務員への贈賄は、不正競争防止法の外国公務員贈賄罪に問われます。
令和6年4月より施行された改正不正競争防止法は拡充され、罰金上限額の引き上げや懲役刑の長期化だけでなく、外国人従業員が海外において単独で外国公務員等に贈賄を行った場合に、両罰規定の適用が明確化されました。
つまり、贈賄を行った個人だけでなく、当該外国人従業員が所属する日本の親会社(グループ本社)も処罰の対象となるため留意が必要です。
とくに海外子会社でコンプライアンスリスクが高まりやすい主な要因は、親会社の管理体制の甘さです。機動力を確保するために、海外子会社の自律性を尊重しすぎているケースもあるでしょう。実際に、地理的距離や文化の違いなどの要因により、本社の監視の目が届きにくい海外子会社では、不正のトライアングルの3要素が揃いやすい環境にあるのです。
たとえば、人的リソース不足による職務分掌の不徹底、日本人駐在員の帰国、往査の不実施は、不正をうむ「機会」となりえます。現地採用の職員が不正を行う「動機」は、私腹を肥やすことである点も押さえておきましょう。幹部レベルの不正が常態化している海外子会社では、当然のことながら一般の従業員も自らの不正行為を「正当化」します。
グループ本社は、海外拠点かつ幅広い事業分野にわたるグループ子会社を束ねるために、適正な監視・コントロールを実施しなくてはなりません。まずは「不正を許容しない」「不正発覚時に看過しない」というトップからのメッセージを、早急に打ち出す必要があるでしょう。
具体的には、グローバルで統一された倫理基準の周知が重要です。グループ共通のコンプライアンスポリシーや行動規範を策定した上で、人材育成をします。後述する贈収賄防止、現地の労働法や異文化への理解を深めることを目的とした定期的な研修も、コンプライアンスリスクを軽減するために必要です。
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ガバナンス不全とは、コーポレートガバナンス(企業統治)が機能していない状態を指します。海外子会社との関係においては、親会社の監督機能の低下または欠如ともいえるでしょう。
実際に、経済産業省による「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」では、「昨今の企業不祥事の多くは、子会社において発生している」点が指摘されています。
上記を踏まえつつ、ここでは、海外子会社のガバナンス不全がどのような経営リスクを招くのか見ていきましょう。
上場会社の場合、粉飾決算など有価証券報告書の虚偽記載等の不正は、開示規制違反です。不公正取引や開示規制違反は、証券取引等監視委員会(SESC)によって、開示検査が行われます。重大・悪質事案と見なされた場合、捜査・訴追当局や海外当局等と連携しながら責任追及が行われるために、対象となった上場会社は信用を失うことになるでしょう。
現地法違反はグループ本社を対象にした処罰や損害賠償請求につながるほか、技術情報の流出は市場優位性の喪失を意味します。そのため、グローバル人材育成体制の整備を含めた子会社の管理強化は、グループ本社にとって重要な経営課題といえるでしょう。
⽇本企業A社は、海外製造拠点として、現地⼦会社B社を設⽴しました。順調に売上を伸ばしていましたが、従業員が相次いで退職し、現地競合他社C社へ転職するようになりました。
B社の類似製品をC社が量産するようになったことを受け、A社は調査を開始。一部の転職者が設計図面を持ち出していたほか、退職後もB社の従業員をそそのかし、C社への技術流出が続いていたことが発覚したのです。
しかし、当初から営業秘密管理がずさんであったために、当該国の不正競争防⽌法に基づく訴訟提議は困難との結論に至りました。
SESCが開示検査を実施した日本企業D社の事例では、海外子会社E社で不正な会計処理が行われていました。1名いた日本人駐在員がすべての権限を握っていたために、牽制機能が十分に働きませんでした。滞留債権や与信枠等の管理面における、本社による統制も不十分だったのです。
監査役監査、内部監査および会計監査人の監査の連携も機能しておらず、この海外子会社に対する往査は約2年にわたり実施されませんでした。
別の事例では、社長が過大に設定した業績目標の必達を役職員に強要した結果、その業績目標達成のために海外子会社が架空売上の計上を行ったケースもありました。
なお、SESCは開示検査の結果に基づき課徴金納付命令勧告や、行政処分その他の措置について内閣総理大臣および金融庁長官に勧告する仕組みです。
国内だけでなく、海外子会社のコンプライアンスも重要視されている背景の1つに、法令違反に対する罰則の強化・拡充というトレンドが挙げられます。実際に、インド太平洋経済枠組み(IPEF)における「公正な経済協定」でも、「贈収賄を含む腐敗行為の防止等に向けた取組」等についての規定が定められました。
たとえば海外子会社に、適用される可能性がある米国の法律の例は次のとおりです。
つまり、これら法規制の解釈も含め、グループ本社(コーポレート部門)は「国際基準に沿った教育」の必要性に迫られているといえるでしょう。経産省のグループガイドラインにあるとおり、コーポレートガバナンスの意義は「取締役会や執行幹部が決定した事業計画等を適正に実行・管理する」仕組みと捉え直すよう、マインドセットを変えることも重要です。
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企業不祥事の原因を追究した調査によると、第1の防衛線である事業部門のコンプライアンス意識が希薄である点に加えて、第2線の管理部門および第3線の内部監査部門によるチェック機能も働かない、つまりガバナンス不全のケースが多いのです。
上記を踏まえつつ、本社主導でグローバル・ガバナンスを強化する3つのステップについて見ていきましょう。
| ステップ | 概要 |
| (1) 親会社・海外子会社の職務分掌を徹底する |
・「3つの防衛線」による役割の明確化: 事業部門、管理部門、内部監査部門の役割を整理し、支援・指導・牽制の仕組みを配置 ・責任の所在を定義: 誰が意思決定をし、誰が指示を出し、誰が監督・モニタリングするのかを定義 ・権限移譲と統制の共通認識の形成: 海外子会社の事業規模拡大に伴う権限移譲を進める一方で、親会社の把握不足を防ぐ統制ルールを策定・共有 |
| (2) グループ共通のコンプライアンス ポリシーや行動規範を策定し、人材育成を行う |
・コンプライアンス ポリシーの策定: 国内外の法令、倫理、社内規定の遵守を全役職員に義務付ける方針を明文化・周知を徹底 ・行動規範の策定: ポリシーをもとに従業員が日々の業務で迷った際に立ち返る統一された倫理基準を明文化・周知を徹底 ・中長期的な取り組みと定着化: 国際基準に沿った教育、現地語対応のeラーニングを導入し、グローバル人材育成を強化 |
| (3) 管理部門・内部監査部門によるモニタリングを実施する |
・リスクベースのアプローチによるリソースの最適化: 不祥事の発生頻度や影響度に基づき優先順位を決定した上で、リソースを割り当て ・第2線と第3線の連携: 管理部門が収集した現場のリスク情報を内部監査部門の監査計画に活用するなど、情報連携を密にすることで、グローバル・ガバナンスを強化 |
LRNでは、コンプライアンス意識を現場に浸透させる方法について、具体的に解説したレポートを無料配布しています。詳しくは下記よりご覧ください。
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【無料レポート】2025年 倫理・コンプライアンスプログラムの成熟度に関するグローバル調査(日本語版) コンプライアンス意識を現場に浸透させるには何をしたら良いのか?「倫理的企業文化」と「リスク評価・報告」における日本企業の課題と、明日から着手できる実務策を紹介しています。 |
LRNでは、「リスクを意識した2026年コンプライアンスロードマップの設計」と題したウェビナーを開催しました。リスクベースの計画立案、部門横断的な連携、研修戦略に対して、コンプライアンスリーダーたちがどのように取り組んでいるか。実践的な知見を共有したウェビナーの要旨は、概ね次のとおりです。
2026年を見据えて、コンプライアンスリーダーにとってのチャンスは何か。それは、年間計画を戦略的な能力へと転換することです。この戦略的な能力とは、「組織全体のレジリエンス」「説明責任」「信頼」を支える能力を指します。
上記を踏まえつつ、海外駐在員や現地スタッフに必須のコンプライアンス研修のテーマについて紹介しますので、年間計画を立てる際の参考にしてください。
LRNの研修プログラム(eラーニング)は、贈収賄の定義から、現金・贈答品・接待のリスク、不適切な帳簿記録、さらには脱税や共通報告基準(CRS)まで、多角的なコンプライアンスリスクを網羅しています。
米国のFCPAをはじめ、英国、フランス、ドイツ、カナダ、ブラジルなどの各国法規制、およびアジア太平洋地域特有の法令や製造業に対応した内容も特徴です。
日本企業は、現地での採用時に差別とみなされるような条件の提示や個人情報の取り扱いにおいて、エラーを起こしがちです。雇用に関連した法律は、国ごとに大きく異なるために、採用、賃金、労働時間、解雇について定めた現地の労働法を理解しなくてはなりません。
LRNでは、積極的格差是正措置(アファーマティブアクション/ポジティブ・アクション)の概念や、採用・人材獲得プロセスにおける公平性の確保を理解し、法的リスクやハラスメントを防止する教育を提供しています。
LRNの「ハラスメント防止・ダイバーシティ研修」について詳しく見る
日本と異なる文化への理解不足は、ハラスメントと差別を誘発したり、正当化したりする要因になりかねません。そこでLRNでは、米国カリフォルニア州やニューヨーク州などの各州法をはじめ、英国、ドイツ、カナダ、インドなど、各国・地域の法令を学ぶコースを提供しています。セクシャルハラスメントやいじめ、職場暴力だけでなく、性的指向・性自認(LGBTQ+)への理解、ソーシャルメディアのリスク、⾏動できる傍観者など実践的なスキル習得まで網羅した内容です。
LRNが提供しているトレーニングコース一覧については、以下よりご覧いただけます。
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LRNで提供している世界標準のE&C(倫理・コンプライアンス)プログラム500種以上を掲載。13のリスク分野を網羅したカリキュラム詳細を、Web限定で公開しています。 |
ここでは、グローバル対応のコンプライアンス研修プログラムの選び方について見ていきましょう。
海外子会社も含めたグループ全体のレジリエンス、説明責任、信頼を支える人材を育成するためにも、次の3つの特長を備えたプログラムを選ぶようにしましょう。
LRNのeラーニングは、上記のすべてに対応しています。多言語・他文化に対応したLRNのeラーニングであれば、地理的距離や文化の違いという壁を越えて、海外子会社の適正な監視・コントロールを実施できるようになるのです。
実効性のある研修プログラムかどうかは、顧客からの推薦や第三者認証が目安となります。LRNは、ブランドンホールグループHCMエクセレンス・アワード2025において、コンプライアンス研修や企業学習プログラムの分野でゴールド4件、シルバー3件の計7件を受賞しました。
下記のとおり、顧客からの直接的な推薦を反映した共同応募をもとに審査が行われ、5年連続での受賞となりました。
【金賞】
| 顧客名 | LRNのeラーニング | 受賞カテゴリー |
| TE Connectivity | Catalyst Reveal | 最優秀学習技術導入賞 |
| HP Inc. | 2024 Cybersecurity – Phish and Consequence | 学習用ゲーム・シミュレーション最優秀活用賞 |
| PepsiCo, Inc. | 新入社員行動規範コース | 最優秀カスタムコンテンツ賞 |
| Standard Chartered | 健康・安全・ウェルビーイング・セキュリティ | 最優秀カスタムコンテンツ賞 |
【銀賞】
| 顧客名 | LRNのeラーニング | 受賞カテゴリー |
| Sanofi | Catalyst Reveal | 最優秀学習技術導入賞 |
| Freeport-McMoRan | 贈収賄防止コンプライアンス | 最優秀コンプライアンス研修 |
| HP Inc. | 製品エンジニアリングにおけるプライバシー統合 | 最優秀カスタムコンテンツ賞 |
LRNは、国際基準に基づいた倫理・コンプライアンス研修を提供しています。詳しくは下記よりご覧ください。
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LRNは、国際基準に基づいた研修とサービスで、3,000社を超える企業の倫理・コンプライアンス推進を支援してきました。多言語対応により、海外拠点を含むグローバル企業全体で一貫した学習を実現します。 |
世界各地には異なる法律や文化が存在するため、「ダブルスタンダード」はガバナンス不全を引き起こす大きな要因です。グループ全体で統一された倫理基準(行動規範)を共通言語として周知してはじめて、コンプライアンス研修の実効性が高まります。
LRNは、国際基準に準拠した多言語対応プログラムを提供し、海外拠点を含むグループ全体の一貫した教育を支援します。デモやトライアルもご利用になれますので、倫理・コンプライアンス領域のエキスパートまでぜひお問い合わせください。