製造業のサプライチェーンには、自然災害や物流網の寸断による供給途絶だけでなく、取引先に関わるサイバーセキュリティ、法令・規制、人権・環境、贈収賄など、さまざまなリスクがあります。取引開始時に確認して終わりにせず、取引関係が続く間も状況の変化を確認することが必要です。
特に購買・調達部門では、サプライヤーや委託先に関するリスク情報を収集していますが、それらすべてのリスクについて同部門だけで判断・対応を行うわけではありません。リスクの内容に応じて、法務・コンプライアンス、サステナビリティ、品質・SCM、IT・セキュリティなどと連携して対応する必要があります。
この記事では、次の3点を中心に解説します。
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サプライチェーンリスク管理(SCRM:Supply Chain Risk Management)は、サプライチェーンに関わるリスクを把握・評価し、優先順位を付けて対応し、その後も状況の変化を確認して見直していく管理の考え方です。
対象は原材料や部品の供給停止だけではありません。サプライヤー、委託先、代理店、販売店などとの関係を通じて、サイバーセキュリティ、法令・規制、人権・環境、贈収賄などの問題も含みます。
「サプライチェーンコンプライアンス」や「サードパーティーリスク管理」は、サプライチェーンリスク管理と重なる部分がありますが、多少ニュアンスが異なります。各用語の違いは、以下の通りです。
| 用語 | 説明 | 主な焦点 |
| サプライチェーンリスク管理(SCRM) | サプライチェーン全体を広く捉える管理の枠組み | 供給継続、地政学、物流、サイバー、規制、人権、贈収賄など |
| サプライチェーンコンプライアンス | SCRMの中で、法令・規制・倫理・基準への対応を確認する領域 | 貿易管理、製品規制、取引先の法令・倫理遵守、人権・環境など |
| サードパーティーリスク管理(TPRM) | サプライヤーや委託先、代理店など、自社外の第三者との関係に焦点を当てる管理領域 | 第三者の確認・評価、契約、取引開始後の確認、問題への対応など |
サプライチェーンには、自然災害による工場停止や物流網の寸断、サプライヤーの事業継続に関わる問題など、コンプライアンスだけでは対応できないリスクもあります。一方、贈収賄、人権、貿易管理などは法令や企業倫理と密接に関わります。そのため、広いサプライチェーンリスク管理の中で、リスクの種類ごとに必要な対応を整理することが重要です。
製造業では、部品や原材料の調達、物流、外部委託、海外拠点などを通じて、多くの取引先が事業に関わります。取引先や取引内容によって確認すべきリスクは異なるため、すべてを同じ方法で管理するのではなく、自社への影響やリスクの特徴に応じて優先順位を付けます。
主なリスクと確認ポイント、対応例を整理すると、次のようになります。
| リスク | 主に確認すること | 対応の例 |
| 供給継続・自然災害・地政学・物流 | 重要部品・原材料の供給元、拠点、物流経路、代替可否、地域情勢 | 影響範囲の確認、代替調達や事業継続策の検討、状況の見直し |
| サイバー・データ | システム接続、データの取扱い、アクセス権、問題発生時の連絡方法 | セキュリティ要件、アクセス管理、定期的な確認 |
| 規制・コンプライアンス・貿易管理 | 取引内容、対象国・地域、製品・技術、必要な社内手続き | 対象規制の確認、契約・社内基準への反映、必要な審査・記録。詳細は製造業の安全保障貿易管理を参照 |
| ESG・人権 | 事業や取引関係に関わる人権・環境上のリスク | リスクの特定・評価、予防・軽減、確認、必要な是正の検討 |
| 贈収賄・倫理 | 第三者の役割、取引地域、仲介関係、倫理基準への適合 | リスクに応じた確認、契約上のルール、行動規範、研修、取引開始後の確認 |
| 品質・サプライヤーの事業継続 | 品質上の懸念、供給に影響する取引先の状況 | 必要な情報確認、関係部門との共有、対応方針の見直し |
この表は一例であり、必要な確認や対応は、事業内容、製品、取引先、地域、規制環境などによって異なります。まず自社にとって重大な影響を生じ得るリスクを特定し、そのリスクに必要な確認と管理策を決めるための参考例としてご活用ください。
サプライヤー管理や第三者管理では、取引開始前の確認に加えて、取引開始後も状況を見直します。ここでは、実務の流れを5つのステップに整理します。
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取引先を把握する → 取引開始前に確認・評価する → 契約・基準・研修などに反映する → 取引開始後も確認する → 問題に対応し、記録・見直しを行う |
まず、サプライヤー、委託先、代理店など、自社の事業に関わる第三者を整理します。そのうえで、事業への影響、取引内容、地域、扱う情報、規制・人権・倫理上のリスクなどを踏まえ、重点的に確認する取引先を決めます。
すべての取引先を同じ深さで確認するのではなく、リスクに応じて確認の優先順位を付ける考え方です。
取引開始前には、第三者の役割や想定されるリスクに応じて必要な情報を確認します。たとえば、機密情報を扱う委託先ではセキュリティ、海外の仲介業者では贈収賄・倫理、重要な原材料を供給するサプライヤーでは供給継続や人権・環境など、重点的に見る項目は異なります。
確認・評価で把握したリスクは、記録するだけでなく、その後の対応へ反映します。必要に応じて、契約上のルール、取引先に求める行動規範、社内の承認、研修などを組み合わせます。
取引開始時に問題がなかった取引先でも、その後に事業内容、拠点、外部環境、規制、問題・事故など、状況が変化する可能性があります。取引期間中も必要な情報を確認し、状況に応じてリスク評価を見直します。
LRNの「2026年倫理・コンプライアンスプログラム有効性レポート(日本版)」では、サードパーティー監督に関する指標の一つとして、「継続的モニタリングの優先度」を日本19%、グローバル32%と報告しています。第三者リスクを取引開始時だけでなく、取引期間を通じて継続的に確認する視点を持つことが求められます。
懸念が見つかった場合は、事実関係とリスクの大きさを確認し、必要な改善要請、追加確認、契約条件の見直し、責任者や専門部門への報告などを検討します。その際に対応内容と判断理由を記録し、その後の確認や次回の評価で参照できるようにすることが重要です。
サプライヤーや委託先、代理店などを管理する際は、取引先によって人権、贈収賄、環境など、確認すべきリスクが異なります。取引先の基本的な評価を行ったうえで、リスクの内容に応じて確認項目や対応を追加します。
以下では、人権、贈収賄、ESGについて、第三者管理の中で確認したいポイントを見ていきます。
経済産業省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」では、人権デューデリジェンスについて、人権への負の影響を特定・評価し、防止・軽減、取組の追跡、情報提供、必要な是正へつなげる継続的な取組が示されています。
製造業では、直接の取引先だけでなく、サプライチェーン上の取引関係も確認対象になり得ます。実際の対象範囲や対応は、自社の事業や取引関係、適用される法令・要請などに応じてご確認ください。
贈収賄リスクは、すべての取引先で同じ状況であるとは限りません。第三者の役割、取引地域、政府関係者との接点、仲介の有無などを確認し、取引先ごとのリスクを評価します。リスクが高い場合は、追加の確認、契約上のルール、行動規範の共有、研修など、必要な対応を組み合わせることが大切です。
ESGは、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点から企業活動を捉える考え方です。サプライチェーンリスク管理では、価格や品質、供給能力だけでなく、取引先の事業活動に伴う環境・社会・企業統治上のリスクも、必要に応じて確認する必要があります。
たとえば、主な確認項目として次のようなものが挙げられます。
ただし、すべての取引先について同じ項目を同じ深さで確認する必要があるとは限りません。取引先の事業内容、活動地域、自社との関係、想定されるリスクなどを踏まえ、重点的に確認する項目を決めましょう。
サプライチェーン上のリスクは幅広いため、購買・調達部門だけですべてを専門的に判断できるとは限りません。購買・調達部門が取引先の情報を把握し、リスクの内容に応じて必要な専門部門と連携することが重要です。
| 部門例 | 主に確認・対応する内容の例 |
| 購買・調達 | 取引先の基本情報、取引条件、供給への影響、重点的に管理する取引先の整理 |
| 法務・コンプライアンス | 法令・規制、贈収賄、企業倫理、契約条件、問題発生時の報告・対応 |
| サステナビリティ | 人権、環境、ESGに関するリスク |
| 品質・SCM・事業部門 | 品質、供給継続、生産・事業への影響 |
| IT・セキュリティ | サイバーセキュリティ、データ管理、システム接続に伴うリスク |
たとえば、購買・調達部門が新しいサプライヤーの情報を確認する中で、人権上の懸念が見つかればサステナビリティ部門へ、贈収賄や契約上の懸念があれば法務・コンプライアンス部門へ、供給停止による生産への影響が懸念される場合にはSCMや事業部門へつなぐ、といった連携が考えられます。
なお、ここで示した役割分担はあくまで一例です。実際の担当部門や承認・報告の流れは、企業の組織体制や事業内容、対象となるリスク、適用される法令・規制などに応じて異なります。
第三者のリスクを評価した後は、自社が取引先に求めるルールや基準を伝え、必要に応じて研修や同意確認を行います。誰が確認・受講・同意したかを記録し、その後の確認やモニタリングで参照できる状態にしておきます。
行動規範や研修だけで第三者リスクへの対応が完了するわけではありません。取引開始前の確認・評価、契約、取引開始後の確認、問題が見つかった場合の対応などと組み合わせて運用します。
サプライヤー行動規範などを設けている場合は、対象となる取引先が内容を確認できるようにし、必要に応じて同意を得ます。研修では、人権、贈収賄、企業倫理、情報セキュリティなど、取引先との関係で確認が必要なテーマを選びます。
研修を実施すること自体を目的にするのではなく、事前のリスク評価や行動規範、契約で求める基準と関連付けて、「誰に、何を伝えるか」を整理します。
行動規範や研修を提供した後は、誰が内容を確認したか、研修を受講・完了したか、必要な同意を行ったかを確認できるようにします。このような記録を取ることで、その後の確認や社内報告で参照できるようにしておくことが重要です。
LRNの「Catalyst Supplier」は、サプライヤー向けの倫理・コンプライアンス研修、行動規範の提供・管理、研修の参加・完了状況の追跡、同意確認、レポーティング、監査可能な記録を通じて、第三者への教育・周知と記録の運用を支援します。
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サプライヤーや第三者パートナーのコンプライアンスを確保するための、ベンダーおよびサプライヤーとのネットワーク管理に特化したコンプライアンスソリューションです。 |
サプライチェーン全体のリスク管理を一つのソリューションだけで行うことはできません。しかし、取引先に行動規範や研修を展開し、その実施状況を確認・記録する仕組みを整えることは、第三者リスク管理の選択肢の一つとなります。
最後に、ここまでの内容を自社の運用に当てはめて確認してみましょう。以下は、現在の運用を振り返り、見直す点を整理するためのチェックリストです。
重点的に管理すべき取引先を整理できているか。
すべての取引先を同じように確認するのではなく、取引額に加えて、事業への影響、扱う情報、取引地域、規制、人権、企業倫理などのリスクを踏まえ、どの取引先を優先して確認するか、整理しておきましょう。
取引開始時に確認して終わりになっていないか。
取引開始時に問題がなかった取引先でも、その後に事業内容や拠点、規制、外部環境などが変化することがあるため、取引期間中も状況に応じてリスク評価を見直せているかを確認しましょう。
問題や重大な懸念が見つかったときの対応先が明確になっているか。
問題を見つけても、誰に報告し、誰が対応方針を決定するのかが決まっていなければ、その後の対応が進みません。リスクの内容に応じて、報告先や意思決定者の役割が整理できているかを確認しましょう。
リスクに応じて必要な専門部門と連携できているか。
サプライチェーン上のリスクは、購買・調達部門だけで判断できるものばかりではありません。法務・コンプライアンス、サステナビリティ、IT・セキュリティ、品質・SCMなど、リスクの内容に応じて必要な情報を共有し、一緒に対応を検討できる状態になっているかを確認しましょう。
行動規範や研修が、その後の管理とつながっているか。
取引先へ行動規範を周知し、研修を実施するだけで終わっていないでしょうか。誰が内容を確認・受講・同意したかを記録し、取引先の評価や継続的なモニタリング、問題が見つかった場合の対応とあわせて管理できているかを振り返りましょう。
こうした第三者管理を含む倫理・コンプライアンスプログラムについて、日本とグローバルの傾向を確認したい方は、LRNの「2026年倫理・コンプライアンスプログラム有効性レポート(日本版)」もあわせてご覧ください。
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【資料ダウンロード】2026年倫理・コンプライアンスプログラム有効性レポート日本版 日本企業におけるE&Cプログラムの有効性、データ活用、管理職教育、サードパーティー監督の課題を解説しています。 |
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製造業のサプライチェーンリスク管理では、供給途絶だけでなく、サイバーセキュリティ、法令・規制、人権・環境、贈収賄など、取引先との関係で確認すべきリスクもあります。まず取引先を把握し、リスクに応じて確認する対象と内容を決めるようにしましょう。
取引開始後も状況を見直し、問題が見つかった場合は必要な対応を記録します。すべてを購買・調達部門だけで判断せず、リスクの内容に応じて専門部門と連携しながら管理することがポイントです。
なお、LRNでは、サプライヤーへの行動規範の周知や倫理・コンプライアンス研修、受講・同意状況の追跡・記録を支援しています。製造業の業務実態に即した研修設計をご検討の際は、以下のボタンやフォームよりお問い合わせください。