組織には行動規範が必要です。効果的な行動規範は、すべての利害関係者に対して、組織の目的と価値観を明確に打ち出すのに役立ちます。これには企業の規模や業界、営利または非営利は関係ありません。また、組織の人々がその価値観に従ってどのように行動し、意思決定を下し、目標を追求し、組織全体で整合性、公平性、敬意、誠実さを保っているかについての洞察も提供します。行動規範はまさに、倫理的な企業文化の基盤となるものです。
行動規範は、特定の企業価値へのコミットメントを外部に表明する役割を果たすことにより、倫理的要件や倫理規制に対する違反のリスクを軽減します。しかし、組織の行動規範が効果的であるかをどのように知るのか、という疑問が残るでしょう。
2023年LRN行動規範レポートでは、効果的な行動規範を定義するのに役立つ、行動規範の有効性に関する8つの側面を取り上げています。世界中の約200社の行動規範を評価し、設計と導入における一連のベストプラクティスを提示しています。また、企業が自社の行動規範の有効性と影響力を評価するための有用なベンチマークも提供します。この調査は、倫理的な企業文化の発展と管理、および職場での倫理的な行動に対して高まる利害関係者の期待に応えるには、行動規範が基盤となるというLRNの見解を後押ししています。
行動規範とは、組織の特徴と文化を定義した文書です。あなたが誰で、何を信じ、なぜ事業を行なっているかということを伝えます。行動規範は、倫理・コンプライアンス (E&C) プログラムの基礎を形作ります。行動規範は、組織の価値観と、その価値観に従って行動するための道筋を示すものです。。つまり行動規範は、利害関係者が整合性、公平性、敬意、誠実さを保つために、どのように行動し、意思決定を下し、事業目標を追求するかという点において、組織文化に影響を与えます。
しかし、行動規範を作成することが、自動的に組織文化の変化につながるわけではありません。これらのメリットを得るためには、効果的な行動規範である必要があります。LRNでは、効果的な行動規範を作成する際、評価するための重要な指標となる8つの側面を特定しました。
行動規範の有効性に関する8つの側面に加え、LRN行動規範レポートでは、紙上で存在するだけの行動規範と実際に組織で運用されている行動規範との違いについて調べています。これらの例は、行動規範を作成するにあたり、規則よりも価値観を重視することの重要性を明らかにしています。
LRNは、倫理文化と倫理・コンプライアンスプログラムの有効性に関する27年間にわたる経験と研究に加え、独自の行動規範評価ツールを使い、本レポートで取り上げている行動規範を評価しています。この行動規範評価ツールは、2015年に開発され、最新の規制やベストプラクティスのガイダンスを反映しながら、継続的に更新しています。このツールでは、行動規範の有効性に関する8つの側面に対応する47の質問に基づき、具体的、客観的、包括的に卓越性の評価を行います。
調査では具体的に、CAC (フランス)、DAX (ドイツ)、FTSE (英国)、NIK (日本)、SGX (シンガポール)、S&P (米国) の各証券取引所の上場企業の上位40社を対象としています。240社のうち195社は、行動規範を公開しており、これらが分析の基礎となりました。当社では、この調査が国際的な範囲に及ぶ必要があると考えています。同時に、これらの地域では、規制と利害関係者の関心が高いレベルにあるため、企業の倫理・コンプライアンスプログラムにも十分な成熟が見られることも認識しています。
当社の行動規範の有効性に関する評価により、S&P 500の構成銘柄である組織の行動規範は、概して効果的であることが示されています。一方、シンガポールのSTI 30の構成銘柄である企業の行動規範は、一般に有効性が最も低いと報告されています。企業の規模と行動規範の有効性にも相関性があり、大企業の行動規範は中小企業よりも効果的であることがわかりました。ただし、大企業と比べて、中小企業は行動規範の有効性を調整することが容易であることが確認されています。以下にあげた8つの側面は、企業の規模に関係なく、効果的な行動規範を作成するために重要なフレームワークを提供します。
E&Cプログラムが成功するか否かは、組織の行動規範によって決まりますが、LRNの長年の経験と研究を通じて、行動規範に対する経営者の姿勢とその有効性にも関連性があることが明らかになっています。経営者がコンプライアンス違反のリスクを理解し、軽減するための対策を講じると、その効果は従業員にも及び、結果的に、従業員が倫理的な行動と組織の価値観を大切にすることにつながります。従って、効果的な規範には、従業員が価値観に従うように働きかけるリーダーシップのメッセージが必要です。
効果的な行動規範には、組織の目的と基盤となる価値観が必然的に定義されています。従って、効果的な規範は、組織の環境的、社会的、およびガバナンスの目標を達成するための最善のツールの一部となります。より効果的な規範の78%は、目的、価値観、ビジネス活動と関連づけられていることが当社の調査により示されています。
行動規範は、誰に対して適用され、どのように管理されるかを明らかにする必要があります。また、各従業員の責任とそれぞれに対する期待を説明する必要があります。役職に関係なく、すべての従業員に同様に適用される場合、従業員は連帯的な責任を負います。連帯的な責任と期待は、最終的に、公正で透明な文化を導き出します。規範の83%が全従業員に適用されると明記されているのに対し、不正行為があった場合の管理について説明しているのは17%に過ぎません。
効果的な行動規範の4つ目の側面は、利害関係者が懸念を表明し、組織内のあらゆる問題について、説明や助言を求めるよう促すことです。当社が調査した規範のほとんどでは利害関係者に声を上げるよう勧める項目が含まれていますが、ホットラインやヘルプラインを含む規範はほとんど見受けられませんでした。
効果的な行動規範では、利害関係者がE&Cリスクを特定するのを支援するために、リスクとそれを回避する方法を明確に説明する必要があります。これによりリスクの軽減を容易にします。
効果的な規範の88%では、倫理・コンプライアンスのリスクについて非常に明確に述べられていますが、効果の低い規範の35%では不明瞭なものとなっています
行動規範が効果的であるためには、従業員の知識源と参照先として機能し、従業員が倫理的ジレンマに直面したときに役に立つ必要があります。しかし、調査したすべての規範のうち、あらゆる倫理的な場面で知識源として効果的に機能する規範は7%に過ぎないことがわかりました。
従業員にとって行動規範に容易に接することが難しい場合、規範の意味をなしません。効果的な規範は、容易に接しやすいばかりでなく、読みやすく、操作しやすく、理解しやすい言語と方法で提示されている必要があります。従業員にとって、より使いやすい規範となるために、他の関連資料へのリンクも含めるとよいでしょう。
行動規範の視覚的、感覚的な側面により、規範を読む誰もが組織の価値観とより強くつながることができます。規範に、従業員や製品など、会社に関連した目を引く画像を組み入れ、読む人を視覚的に引き付けることが必要です。つまり、規範には会社のブランドを含める必要があります。
LRNによる行動規範の評価では、行動規範の有効性の比較において、ゼネラルモーターズ、3M、HOYAが上位にランクされました。これら3社の行動規範は、読む人を視覚的に引き付けます。また、文化やブランドなど各企業特有の側面を反映しています。組織全体の目標と組織が掲げる価値を達成のために、規範がどのように役立つかの説明も簡潔に述べられています。
倫理・コンプライアンスの責任者とリスク管理担当者は、効果的な行動規範の重要性について認識しており、自社の行動規範の改善、および関連性と有用性を向上させる方法を常に模索しています。2023年LRN行動規範レポートでは、行動規範の有効性を向上させるためのさらなるアイデア、参考例、ベンチマーク、洞察を提供していますので、ダウンロードしてご活用ください。